明けましておめでとうございます。二〇二六年の新春を迎え、謹んでご挨拶を申し上げます。
本年の干支は「丙午(ひのえうま)」。火の性質が強く重なる年とされ、「火が火を呼び、外へ外へと燃え広がる」――そんな勢いの象徴として語られてきました。都市部や一部の強い売場では、インバウンドの持ち直しや高額帯の動き、展示会の賑わいなど、熱を感じる場面もあるでしょう。話題性のある新作や高付加価値モデルが目に入りやすくなり、表情としては明るさも見えます。
ただ、その熱が全国一律に広がっているかといえば、現場の肌感覚としてはそう単純でもありません。時計・宝飾・眼鏡の商いは、地域の暮らしと密着して成り立っています。商圏の縮小、原価や人件費の上昇、価格転嫁の難しさ、後継者問題。こうした構造的な課題は、依然として重く残っています。数字だけを見れば動いているようでも、内側では在庫が重くなり、値引きが増え、固定費の重さがじわじわ効いてくる――そんな「消耗のかたち」も同時に起こり得ます。
だからこそ、丙午の「火」を外へ広げるための勢いとしてではなく、自店を焼き直す“内火(ないか)”として使う。今年は、この読み方がいちばん現実に沿っていると感じています。外へ派手に燃え広がる炎ではなく、内側へ集めて余分を焼き落とし、本質を研ぎ澄ます熱。勢いの年にこそ、勢いに乗るのではなく、勢いを制御して深く整える方へ振り向ける。成熟局面にあるこの業界には、むしろこの使い方が似合います。
というのも、いま業界で進んでいるのは、拡大というより「選別」「再編」「再定義」だからです。採算の合わない取引を整理し、“何でも屋”から撤退し、続け方そのものを変える。売上を積み上げる以前に、やり過ぎていたことを減らし、守るべきものに集中し、長く続けられる形へ整えていく。そうした動きが、すでに各地の現場で起きています。
この流れは、店舗側だけの話でもありません。メーカー・ブランド側もまた、量から質へ、取引先の選別やパートナー制の強化へと、炎を絞る方向に動いています。無差別に広げるのではなく、価値を守れる売場、伝えられる売場へと関係を寄せ、深くし、長くする。結果として、これまで「何となく続いてきた関係」や「慣習で残っていた取引」は、見直しの対象になりやすい。丙午の火は、こうした絞り込みを後押しします。曖昧なままでは続けにくくなるからです。
丙午の年は、誤魔化しが効かなくなる年とも言えるでしょう。価格の理由、提案の根拠、「なぜこの店で買うのか」という必然性。これまでなら言葉にしなくても通っていた部分が、通らなくなる。単価が上がる局面ほど、売上が立っているように見えることもあります。しかし、内実が弱いまま数字だけが先に立つと、必ずどこかに歪みが出ます。在庫が残る、値引きが増える、回転が落ちる、人が疲弊する。火力で押し切る回し方は、火の強い年ほど危うい。だから今年は、「規模を伸ばす」より先に、「続く形に整える」ことのほうが、結果的に前へ進む近道になります。
そこで鍵になるのが、商いの“密度”です。密度とは、同じ売上でも、どれだけ消耗せずに回せるか。さらに言えば、どれだけ「次につながる形」で積み上がっているか、ということだと思います。品揃えの考え方、在庫の持ち方、値付けの設計、説明の言葉、売った後の調整や修理まで。これらが一本の線でつながっている店は強い。逆に、どこかが薄いと、別のところで無理が出る。薄利を量で埋める、値引きで動かす、広告で集め続ける――そうした“火力頼み”は、続けるほど疲れます。
宝飾であれば、リモデルや修理、クリーニングを「付帯」ではなく店の柱として磨き込むことです。買わない年にも接点が残り、相談が生まれ、関係が続く。地金高や価格上昇の局面ほど、「なぜ今これなのか」を言葉で支えられる店が選ばれます。時計であれば、修理・保証・正規性といった安心を、店の言葉で語れる基準を持つことです。値上げの時代ほど、「価格以上の価値」が説明できる店は崩れにくい。眼鏡であれば、検眼から提案、調整、アフターまでを仕事の流れとして整え、生活の困りごとに翻訳して伝えることです。用途別の提案や調整の価値を守る設計ができる店は、価格比較の荒波でも持ちこたえます。派手ではありませんが、こうした足元の積み重ねこそが、丙午の火を味方につける最短距離だと思います。
無理に燃え広がれば焼け焦げます。けれど、内側を整えた店は、次の周期で必ず力を発揮します。伸びる時期に伸びるのではなく、伸びる前に整えておく。整えた者だけが、自然に伸びる局面で伸び切れる。二〇二六年は、その地力を養い、商いの密度で差をつける一年です。丙午の火は、外へ放つためではなく、足元を焼き直すためにこそ借りたい――私はそう考えています。
本紙もまた、現場の知恵と変化の兆しを丁寧にすくい取り、皆様の次の一手に資する情報を届けてまいります。本年も皆様のご健勝とご繁栄を心よりお祈り申し上げます。
令和八年一月一日
中部時眼宝飾新聞社 内堀 清貴