拡大より深耕。丙午の火を「内」に灯す一年へ

明けましておめでとうございます。2026年の新春を迎え、謹んでご挨拶を申し上げます。

本年の干支は「丙午(ひのえうま)」。十干の「丙」は火の“陽”で、明るさや情熱、内にあるものが表に出る象徴とされます。十二支の「午」もまた火の性質を帯び、活動力や前進の勢いを表す――。火が重なる年、というのが伝統的な捉え方です。

一般には「火が火を呼び、外へ外へと燃え広がる」と語られがちですが、商いの現場では、火がどこへ向かうかは一律ではありません。社会が拡張局面にある時代なら、炎は外へ広がりやすい。けれど成熟し、閉塞感が漂う局面では、同じ火が内側に向かって激しく燃える。精錬、覚醒、本質への回帰――。2026年をそう読むことにも無理はないと感じています。

時計・宝飾・眼鏡の現場を見渡せば、商圏の縮小、原価や人件費の上昇、後継者問題など、構造的な課題は依然として重く残っています。インバウンドの追い風や展示会の賑わい、話題性のある商材など、表面上の熱気が戻ったように見える場面もありますが、その熱が業界全体へ均等に回っているかといえば、そう単純ではありません。

むしろ目につくのは、拡大よりも「選別」「再編」「再定義」です。採算の合わない取引を整理し、“何でも屋”の看板を降ろし、続け方そのものを組み替えていく。取引の形も、量を広く追うより、信頼と継続を軸にした関係へと絞り込まれていく。丙午の火は、そうした内側の熱として、今年いっそう強く作用するのではないでしょうか。

ここからは、三業態それぞれに、その「内向きの火」がどう現れやすいか――現時点の見立てを共有します。装飾品でありながら、個人のアイデンティティや資産感覚とも結びつきやすい領域だからこそ、影響は小さくありません。


【ジュエリー】溶解と再生──「作り替える」価値が前に出る

火は金属を溶かし、形をいったんゼロに戻します。丙午の強い火がジュエリーにもたらすのは、流行の更新というより、手元にある価値を「いまの自分に合う形」へ作り直す方向です。箪笥に眠る親や祖父母の指輪やネックレスを、今の生活に合わせて作り替える。買い足すよりも、いったん溶かして、自分だけの一点物として甦らせる。そんな需要は、静かに、しかし確実に広がっていくでしょう。

そしてもう一つ、火が照らすのは「身につける理由」です。単なる装いではなく、不透明な時代を生き抜くための拠り所として、石や素材を選ぶ感覚が戻ってきます。赤色系の石や、ゴールドのように象徴性の強い素材が選ばれやすくなるのも、その延長線上にあります。繊細さ一辺倒ではなく、素材の量感や熱量を感じさせるデザインが支持される場面も増えるはずです。2026年は、ジュエリーが「飾る」から「託す」へ、意味の重心を少しずつ移していく一年になります。


【時計】虚飾が焼かれ、心臓部へ──「資産」より「愛着」を選ぶ目

火は光でもあります。丙午の火は、時計の世界で見栄えより中身を照らします。投機の熱、値上がり期待、リセール前提の買い方――そうした外向きの動機は落ち着き、選ぶ理由は内側へ戻っていく。作り手の熱量、設計の思想、使い続けるほど深まる愛着。結局、最後に残るのはそこです。

その流れを象徴するのが、スケルトンやオープンハートのデザインでしょう。機械が動く様子を目で確かめ、鼓動を感じ、透明性のあるものに惹かれる。丙の「明らかにする」という性質が、意匠としても心理としても表面化してきます。2026年は、「この一本を、なぜ選ぶのか」を語れる時計が強くなる。店側もまた、その一本の心臓部を言葉にできるかどうかが、差になります。


【眼鏡】個の輪郭が立ち上がる──眼力を整える「顔の道具」

眼鏡は、顔の真ん中にある。視力を補う道具である以上に、その人の輪郭や意思を映し出します。閉塞感のある時代ほど、「無難に馴染ませる」より「自分らしさをはっきりさせる」方向へ揺れやすい。太いセルフレーム、エッジの効いた造形、燃えるような赤を含む色味――それらは単なる派手さではなく、内なる炎を“顔まわり”で表現する選択として増えていくでしょう。

同時に、眼鏡は機能面でも選択肢が増え続けています。用途別の機能性レンズやサングラスなど、生活シーンと直結した提案が広がるほど、「何を選べば楽になるか」「どう見え方が変わるか」という相談の質が価値になります。作りの良さ、手仕事の温度、背景のストーリーに惹かれる層も根強い。量を外へ広げるより、内側に理由を蓄えた一本が、時間をかけて支持を集める。2026年の眼鏡は、機能と感性の両方で“選ばれる力”が問われます。


3業界共通:2026年の舵取り(丙午の火を味方につける方法)

三業態の話をまとめると、今年の火は、派手に燃え広がるよりも、内側で不純物を焼き、芯を濃くする方向に働きやすい。だからこそ、経営者が取るべき舵取りは、次の三点に集約されます。

第一に、店舗を増やすより、ファンを増やすこと。
横に広げるほど火力は分散します。一箇所でいい。“あそこに行けば熱い体験ができる”という高密度の火源を作る。商品だけでなく、提案、説明、修理や調整、受け渡しまで含めて「体験」として設計できる店が強くなります。

第二に、透明性(クリアネス)を武器にすること。
火の年は、光の年でもあります。根拠のない値付け、曖昧な説明、都合の悪い部分の隠蔽は、いずれ熱で炙り出される。トレーサビリティ、作り手の顔、素材や工程、アフターの条件――「見える化」を徹底する姿勢そのものが、信頼という燃料になります。

第三に、接客を「対話(セッション)」へ寄せること。
顧客はモノだけを求めているのではなく、自分の内面にある願い、不安、節目の意味を“形”にしてくれる熱を求めています。販売員は売り子ではなく、内なる炎を引き出すスタイリスト/コンサルタントになる。買う理由が内向きになるほど、この力が効いてきます。


結論:商売の炎は「拡大」ではなく「精錬」へ

2026年、この三業界の「商売の炎」は、売上規模の拡大へ一直線に向かうというより、ブランドの純度

By |2025-12-23T12:05:24+09:0012月 23rd, 2025|お知らせ, 特集|【年頭所感】拡大より深耕。丙午の火を「内」に灯す一年へ――時計・宝飾・眼鏡三業界の「選別」と「再定義」を読む はコメントを受け付けていません

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